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解雇ルールの法制化

 平成16年1月に施行された労働基準法改正法で、解雇ルールが条文化され、その後この条文は新しくできた労働契約法に移されました。。また、就業規則の記載事項として「解雇の事由」が明示され、解雇を予告された労働者は使用者に解雇理由を記載した文書の交付を請求できるという規定ができました。

 解雇ルールは、労働契約法第16条に、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されました。この規定だけ読みますとそもそも使用者に解雇権があるかどうか定かでありませんが、解雇権については民法に定めがあります。民法627条に、雇用契約について期間の定めをしないときは、各当事者は何時でも解約の申し入れをなすことができ、以後2週間の経過によってその契約が消滅する、と規定されており、労働者には「辞職の自由」、使用者には「解雇の自由」があるものとされています。労働基準法は、労働者保護のために使用者側に義務を負わせるという趣旨の法律であるから、使用者の解雇権そのものには触れずに、解雇権の濫用について規定し、解雇についての争いが生じた場合に、使用者側に解雇権の濫用でないことの挙証責任を負わせている、というのが改正の趣旨です。

 これは、従来判例として確立してきた解雇権濫用法理を、「何も足さず、何も引かず」に明文化したものとされていますが、上記のような論理立ては非常に判りにくく、法律を読んで正しく理解するのは至難のわざであります。専門家にとってもわかりにくいらしく、平成16年の法改正でも、労働政策審議会の建議、厚生労働省の法案、国会での修正と、条文が一転二転しました。法案には使用者の解雇権が書かれており、但し書きで、濫用規定がありましが、主文の解雇権は労働基準法の立法趣旨に合わないということで削除され、但し書きの部分が残って労働基準法第18条の2(現在は労働契約法第16条)になりました。結果的には厚生労働省の勇み足でしたが、審議会での議論もあまり深まっていなかったように思われます。

 解雇をめぐるもうひとつのポイントは、就業規則に記載する「解雇の事由」でありまして、それが例示列挙なのか限定列挙なのかという問題があります。例示列挙であれば就業規則に記載されている解雇の事由以外の理由でも解雇できることになりますが、限定列挙であれば列挙されている理由以外では解雇できないこととなります。厚生労働省は、国会答弁の中で、「就業規則を全体として眺めてみて限定列挙といえるほどに書き込まれていれば限定列挙である」という訳の判らない説明をしていますが、判例は基本的に限定列挙の考え方をとっています。つまり、使用者は、就業規則のなかに解雇の事由を書き込むことによって、解雇権をあらかじめ制限しているということになります。今回「解雇の事由」が絶対的記載事項であることが明確にされたことで、実務的には就業規則の重要性が高まったと思われます。

 ここまでの議論をまとめますと、解雇が有効であるためには、使用者はまず就業規則に書いてある解雇の事由に該当することを示さなければならない、これが入り口規制です。次に、その解雇が解雇権の濫用にあたらないことを示さなければならない、という流れになっています。

 それでは、解雇権の濫用にあたらない解雇とはなにかということになりますが、これは過去の判例にもとづいて判断することになります。一般的には、合理的と認められる解雇事由は、大別すると次の3種類になります。
第一は、労働者の傷病や能力・適格性の欠如などにより、労務提供が適切になされない場合です。
第二は、労働者に業務命令違反や不正行為、暴行、施設毀損などの非違行為があった場合です。
第三は、経営不振による人員削減など経営上の必要性がある場合です。
そのほか特殊なものとして、適法なユニオンショップ協定に基づく解雇も合理性が認められます。

 上記第三は、いわゆる整理解雇と呼ばれますが、これについては、1970年代の第1次石油ショック後の不況期における整理解雇多発を背景として、判例において、解雇の四要件

  1.   1.人員削減の必要性
  2.   2.解雇回避努力
  3.   3.解雇対象者の客観的、合理的選定
  4.   4.労使協議など手続きの妥当性

が確立しています。

 一般的には裁判所の判断はかなり厳格であり、解雇の合理性を容易には認めない態度であるといわれています。したがって、解雇権濫用法理は、解雇規制的な性格が強いものと考えられており、各企業の雇用維持責任により社会全体の雇用の安定を図ろうという、日本のこれまでの雇用政策の基本的な考え方が反映されていました。企業の雇用責任を追求し、解雇を制限する一方において、配置転換、転勤、出向や残業時間などについて包括的人事権を企業に認め、就業規則や雇用条件等の変更に関して企業に大きな権限を認めることによりバランスを取ってきたのです。

 しかし、経済の長期低迷とデフレのなかで企業が構造的な転換を迫られている現状に照らして考えると、解雇ルールをもっと明確にし、解雇規制を「緩和」することが必要とおもわれます。なぜならば、第1には、解雇規制の厳しさが雇用確保に結びついていない可能性が高いことがあります。解雇規制が強ければ強いほど企業は新規採用に慎重になり、経済が多少成長したくらいでは新規雇用は拡大せず、失業率は下がりません。また、解雇制限が厳しいと、すでに就業している人の雇用は守られる代わりに、一度失業すると長期間失業状態に留まらざるを得ないという分析結果もあります。第2には、企業の雇用保証に頼って雇用確保を達成する政策から、転職を前提とする雇用政策に転換することが必要となっていることがあります。具体的には、職業紹介の活用、能力開発の支援および雇用創出対策を内容とする「積極的労働市場政策」への転換であります。これは、雇用面における自己責任原則と市場原理への方向転換とみることもできます。

参考文献
樋口美雄「雇用と失業の経済学」2001年、日本経済新聞社
中窪裕也他「労働法の世界(第3版)」1999年、有斐閣
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