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企業の人事制度・・・その変遷

会社と社員の関係はどのように変化してきたのか。戦後の人事制度の変遷を経済の軌跡の中で概観します。(平成24年5月22日亜細亜大学経済学部特別講義より)

戦後の経営の変遷

企業の人事制度は、等級制度を中心に、評価制度、給与制度、昇格・任用・異動の仕組み、人材開発制度というようなものがあります。これを一つずつ説明してもわかりにくいので、日本企業の戦後の経営の変遷をお話ししながら、人事制度の話をしてみたいと思います。

厚生労働省が行っている賃金構造基本統計調査で、会社員の平均勤続年数と平均年齢の推移がわかります。1958年の平均勤続年数は6.4年、2011年は11.9年です。平均勤続年数はだんだん伸びてきて、2000年に12年ぐらいになりました。そこがピークで、最近は少し下がっています。平均年齢は1958年は30.9歳、これはじわじわと上がってきて、2011年は41.5歳です。

同じ調査から会社員の所定内賃金、つまり月給の推移を見ますと、1958年は平均が1万6000円です。それが1975年前後、第1次石油ショック後のインフレの時期に急激に上がり、1990年ぐらいのバブルの時期にもかなり上がりました。2000年は30万7000円になっています。2011年は29万7000円で、ここ10年ぐらいはむしろ下がり気味になっています。

続いて、企業の人事制度の変遷を大まかに見ていきます。その時々で評判になったり影響力を持ったレポートや本も併せて紹介していきます。

生活給・年功給をベースとした賃金制度

日本の企業の賃金制度は、戦後から1965年(昭和40年)ぐらいまでは、基本的に生活給・年功給だったといわれています。1947年に電気産業労働組合(電産)が、電気産業、いまの電力会社に要求して導入された賃金制度(電産型賃金制度)が、戦後の日本の賃金制度の原型になったといわれています。

電産型賃金制度は、年齢と家族の数と勤続年数で給料がほとんど決まっていたといわれています。生活給は皆さんイメージできると思いますが、会社に就職して結婚して子どもができて、40代から50代前半は、家のローンや子どもの学費で一番お金が必要な時期ですが、それに合わせて給料を上げていこうという仕組みです。

会社に入ったら、先輩のほうが絶対に給料は高いわけです。どういう仕事をしているかということとあまり関係なしに、年齢の高い人ほど給料が多い、家族が多いと給料が多いという仕組みです。

これは一つは、戦後日本の生活水準がそんなに高くなく、給料をもらって生活するのがやっとだったという事情もあると思います。もう一つは、長期の雇用を前提にして、若いときは自分が働いた分よりも安い給料でも、だんだん年齢が上がってお金が必要になってきたときに、給料をたくさんもらえばいい。最初は会社に貸しをつくって、年を取ったら返してもらうという考え方に立っています。それが生活給・年功給といわれるものです。

『日本の経営』(1958)

1958年にジェームズ・アベグレンが『日本の経営』という本を書きました。アベグレンはアメリカ人で、戦争中は海兵隊にいて日本語教育を受けていたのでしょうが、戦後広島に来て原爆の影響調査もしたようです。1955年(昭和30年)ごろ、関西地域を中心に工場を調査して回りました。40工場ぐらい調査したようですが、それをもとに『日本の経営』という本を出しました。

これはもともと“The Japanese factory”というタイトルでしたが、出版社が「日本の工場」よりは「日本の経営」のほうが売れると考えたのだと思います。アメリカ人から見て、日本の工場の経営あるいは人事制度はアメリカと全然違う、全く異質なものだということを発見して、それをまとめたわけです。

たとえば従業員と会社の関係について、こういうことを言っています。「どのような水準にある日本の工場組織でも、労務者は入社に際して、彼が働ける残りの生涯を会社に委託する。従業員と会社の終身的関係は、アメリカにおける人事管理や労務関係の規則になっているものとは異なった種類の義務と責任を、工場と従業員の双方に課している」。

これを彼は会社と従業員の終身的関係(lifetime commitment)という言い方をしています。アメリカでは労働者はよりよい待遇を求めて異動するのが当然だという考え方ですが、日本に来たら全然違うということを発見したわけです。

給料についてもこう言っています。「基本給は年齢と教育の関数であり、これらの要素のみの関数である。能力や優秀性に対してある程度の幅の弾力性は与えられるけれども、基本給に対する付加分は第一義的には勤続年数の関数である」。これについても、日本以外の国は実力主義が前提にあって、日本はこんなに違う国だと言っています。

労働組合に関しても、ヨーロッパは職業別労働組合です。これは昔のギルドから発展してきたためです。アメリカは産業別労働組合が普通です。それに対して、日本は企業別労働組合です。

このようにアベグレンは、日本はアメリカとはかなり異質である。要するに遅れていて、非効率な面があると書いたわけです。

ところが、これがかなり違う評価を受けて、いまではアベグレンが日本の人事制度の三種の神器を発見したといわれています。それは日本の企業が成功して、成功の要因はどこにあるかという話になったとき、異質で遅れたものと考えられていたものに、日本の強さがあったのではないかと評価されたわけです。

三種の神器というのは、もともとは皇室に伝わるもので剣と勾玉と鏡でしたか、それを日本の人事制度に当てはめて、終身雇用制、年功序列制、企業内労働組合の三つです。この3点セットが日本の人事制度の特徴であるということをアベグレンが発見したといわれています。

のちに日本の経営者も、これはなかなかいい仕組みではないかと考えるようになりました。アベグレンはその後も日本とかなりかかわって、最後は上智大学の教授をやりましたが、5年前に亡くなっています。

職務給の導入と失敗

会社は、生活給・年功給に対して、問題だと考える向きもありました。それはある意味では当然で、生活給・年功給は、もらうほうとしては合理性があるかもしれませんが、払う会社としてはそれほど合理性がありません。仕事ができる人、あるいは重要な仕事をしている人に、給料をたくさん払うべきだ、あるいはそういう人が昇進すべきだと会社は考えます。

そこで1955年に日経連が『職務給の研究』というレポートを出しました。職務給は仕事に対してお金を払うという考え方です。実際に1955年前後に職務給を導入した会社もあったようですが、あまりうまくいきませんでした。

生活給・年功給は年齢と勤続年数と家族の人数で給料が決まる仕組みですが、職務給はどういう仕事をしているかで給料が決まる仕組みです。会社の中の仕事を分析して、この職務はどのぐらいのサイズで、どういう給料を払うか、職務によって序列をつけようという考え方ですが、あまりうまくいかなかったといわれています。

それは、一つは経済あるいは企業がどんどん変わっていくとき、つまり職務がどんどん変わっていくときに、職務給は対応しにくい面があります。もう一つは、職務給は職務に対して給料を払うので、ある意味ではフェアですが、誰をその職務に当てるかという、別の基準をつくらなくてはいけないという問題が出てきます。そんなこともあってうまくいきませんでした。

職能資格制度の時代

そうこうするうちに、企業は職能資格制度をつくり始めました。1969年に日経連から『能力主義管理』というレポートが出ています。日経連に加盟している企業の優秀な人事課長などが集まって、1年ぐらいかけて600ページぐらいの本を出しました。このあたりから日本の職能資格制度が始まったといわれています。

日経連(日本経営者団体連盟)は1948年にできた組織です。もう一つ似たような組織で経団連(経済団体連合会)がありました。日経連は企業側が労働組合に対抗するために理論武装しなければいけないという観点でつくった団体です。経団連は主に政策提言をするためにつくったものです。日経連と経団連は10年ほど前に合併して、今は日本経団連といいます。

日経連は『能力主義管理』を出して、職能資格制度を提唱しました。これは日本で生み出された制度といわれています。1990年ぐらいまでが職能資格制度の時代といわれています。

『職能資格制度』(1975)

職能資格制度とはどういうものだったのか。楠田丘という有名な人事コンサルタントが書いた『職能資格制度』で例示されたフレームで見てみたいと思います。

職能資格制度は、会社の役職等級をたとえば9段階に分けます。一般職能がJ-1級(定型・補助業務)、J-2級(熟練定型業務)、J-3級(判断定型業務)。中間指導職能がS-4級(判断業務)、S-5級(判断指導業務)、S-6級(企画・監督業務)。管理・専門職能がM-7級(管理・企画業務)、M-8級(上級管理・企画業務)、M-9級(統率・開発業務)。この九つが社内の資格で、かっこ内はその定義を示します。

そして、それぞれの資格はどういう能力のある人が該当するかという基準を細かくつくります。社内にもいろいろな仕事があるので、たとえばJ-3級は、生産管理部門ではこういう仕事のできる人、人事部門ではこういう仕事のできる人、営業部門ではこういう仕事のできる人と細かくつくり込みます。そしてJ-3級に書いてあることが全部できるようになったら、S-4級に昇格するという仕組みです。

職位は、たとえばS-6級の人の中から係長を指名する。係長のポストが空いたとき、S-6級にいる人で、まだ役職に就いていない人を係長に任命するという仕組みを取ります。これが職能資格制度です。つまり、社内の資格があって、対外的に名乗る役職あるいは組織上の職位はあとからくっついてくるという仕組みです。

それぞれ経験年数が決められていて、たとえばS-4級は2~8年、最短2年、最長8年です。大卒で入社すると最初J-3級に入ります。一定の仕事ができるようになって職務上の能力を満たすと、上に進んでいきます。

経験年数の最短を足すと、J-3級からS-6級まで10年で通過します。M-7は管理職ですから、大卒で一番できる人は入社10年で管理職になります。一番できない人は、最長を足すとJ-3級からS-6級まで28年です。大卒で入社して28年経つと50歳です。当時は定年が55歳でしたので、管理職にならないで、S-6で止まる人もいるという想定でした。

ポイントは、仕事上の能力を定義して、そこに達したら資格を上げていくという仕組みをつくって、人の育成と処遇を結びつけたことです。給料の金額は資格で決まります。たとえばM-7級、課長レベルの人たちは、課長というポストに就いているかどうかは関係なく、基本的に同じ給料をもらっているという仕組みです。

この仕組みがよかったのは、一つは人を育成する仕組みをつくりやすいこと、もう一つは人の異動が楽だということです。いま言ったように、M-7級の人はどこの課長もできて、同じ給料である。経理課長を人事課長に移すということが簡単にできる。ですから、右肩上がりで組織が大きくなっていくとき、なおかつ仕事がどんどん増えていく時代には、こういう仕組みがうまくマッチしたと考えられています。

『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979)

日本の企業は2回のオイルショックを乗り越え、日本経済は順調に拡大したので、日本の人事制度が非常によかったのだという話が出てきました。たとえばアメリカ人のエズラ・ヴォーゲルが、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(1979年)を出しました。

ヴォーゲルはハーバード大学のスタッフで、日本文化を研究するためにしょっちゅう日本に来ていたようです。その中で日本の会社員の人と付き合って、日本の企業の研究をするようになりました。

日本の企業社会は、長期的な関係で付き合いがあって、お互いに仲はいいけれども、内部で競争している。会社に対する忠誠心はあるけれども、同期の間での競争が激しく、昇進でほとんど差はついていなくても、同期の中で誰が一番できるかをみんなよくわかっている。あるいは同じ給料だけれども、その人に仕事が集中して、それをみんな平然とやっている。結果的にその人が将来社長になったりする。その仕組みが非常にいいということが書いてあります。

ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の副題は「アメリカへの教訓」です。つまりアメリカ人に対する教訓として、日本が優れているという話をしたかったわけです。

余談ですが、この間の日経新聞にヴォーゲルさんの記事が載っていました。もう相当な高齢ですが、ハーバード大学名誉教授という肩書きで、中国問題の専門家と紹介されていました。つまり、アメリカのアカデミズムの人たちは、この当時は日本のことをよく研究していて、日本の経営についての本をたくさん書きました。そのヴォーゲルがいま中国のことを研究しているというのは、よく時代を表していると思います。

個人的な経験で恐縮ですが、私が1985年から2年間留学していたミシガン大学のビジネススクールに、C・K・プラハラードという経営戦略の専門家がいました。インド人の先生ですが、けっこう有名な人で、日本の経営についてよく研究していました。特にいまのパナソニック、松下電器など電機業界のコンサルティングをずいぶんやって、よく知っていました。

その先生が経営戦略の授業で私を指して、「ヒデオ、お前は企業からの派遣で留学してきているのか」と聞きました。「そうだ」と言ったら、「お前がいまの会社で自分のビジネスキャリアを終わる可能性は何パーセントぐらいか」と聞きました。そのときは転職することは考えていなかったので、主観的には100%だったのですが、一応「90%だ」と答えました。

そうしたら先生はわが意を得たりという感じで、「これが日本の企業なんだ。日本の社員はロイヤルティーが高い。これが日本の企業の強さなんだ」と言っていました。そんな感じで、アメリカのビジネススクールの先生も日本のことをよく研究していたわけです。

日本では1987年に伊丹敬之先生が『人本主義企業』という本を書きました。人本主義は資本主義に対する言葉で、伊丹先生はこの本の中でこんなことを言っています。

「人本主義は、人が経済活動の最も本源的かつ希少な資源であることを強調し、その提供者たちのネットワークのあり方に企業システムの変遷のあり方の基本を求めようとする考え方である」「人本主義は日本の成功の本質である。人本主義は時代を越え国境を越えることができる。日本企業は人本主義という基本原理に立ち返って、変化を乗り越えてゆくべきである」。この本もずいぶん注目され、人本主義という言葉もけっこうはやったと思います。

成果主義の登場と失敗

ところが、バブルがはじけ、日本経済も曲がり角に来ました。バブルは企業の人事制度と直接関係はないと思いますが、職能資格制度がバブルを助長した面はあると思います。というのは、企業は新卒一括採用で、たくさん人を採用して、その人たちを職能資格制度と呼ばれる社内の資格で処遇していく。役職が空いたらその人を役職につけるという仕組みをつくったのですが、バブルのころに経営の合理化をしたり、組織のフラット化をしました。

経営合理化をすると少ない人数で同じ仕事ができるわけですから、70年代に入社した人たちが管理職になるぐらいの年になってきて、そのへんの人が余ってくる。組織をフラット化するので、ポストも減ってきた。管理職の処遇を受けているけれども、役職に就かない人がけっこう出てきました。

その人たちを何とか活用しようとして、ファイナンスで安いお金が調達できたので、ずいぶん新規事業を行いました。それはある意味ではバブルの延長線で起きたのですが、バブルがはじけた瞬間にそれが維持できなくなって、人事の面でもリストラがかなり厳しく起きました。それが1990年代前半ぐらいまでの動きです。

そういう中で、能力で処遇するよりも、結果で処遇しないといけない、成果を上げた人に給料を払いたいという考え方が出てきて、1990年代の前半は成果主義の時代と言えると思います。

成果主義の中でも、いまでも典型的な例といわれているのは富士通です。1993年に社長の号令で、成果主義の人事制度をつくることになりました。富士通の成果主義は、カリフォルニアのシリコンバレーの技術者たちの処遇、pay for performanceという仕組みを日本に持ってきたものだといわれています。

富士通の成果主義制度はものの見事に失敗しました。それを書いた本もあります。富士通にいた城繁幸さんという人事コンサルタントが、『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』という本を書いています。いまからいえば、富士通の成果主義は素朴なもので、人事制度としてはお粗末な仕組みであったということです。

この時期は成果主義がいわれたのですが、それは混乱に満ちたものでした。新聞にも成果主義という言葉が頻繁に登場しましたが、内容を読んでもよくわからない。おそらく書いている新聞記者も、何のことかわからずに書いていたと思います。

余談ですが、新聞記者というのは、人事制度がわからずに書いている人がけっこう多いと思います。記事を読んでいると、年功序列か成果主義しかないような書き方をしています。年功序列を否定すると成果主義ですよという幼稚な成果主義がずいぶんもてはやされて、それが人事の面でもかなり混乱をもたらしたというのがこの時期です。

人材ポートフォリオ論

そのころ新しい考え方も出てきました。たとえばコンピテンシーという考え方、あるいは人材ポートフォリオという話が出てきています。コンピテンシーは説明しにくいし、理解しにくいので飛ばして、人材ポートフォリオの話をしたいと思います。

人事コンサルタントの高橋俊介さんが『人材マネジメント論』(1998年)を出しています。この本はよくできた本で、これから経営の研究をしたい、人事の仕事をしたいという方は、ぜひ読んだらいいと思います。

基本的に高橋さんは、企業の経営戦略が先にある、企業の儲かる仕組みはそれぞれの企業によって違うので、それに沿って人事制度をつくらなければいけない。人材の育成や教育は、企業の戦略が先にあって、それに沿ってつくるものでしょうという考え方をしています。それをさらに一歩進めると人材ポートフォリオという考え方が出てきます。

ポートフォリオという言葉は皆さんご存じですか。ポートフォリオはもともとファイナンスの言葉です。1950年代にマーコウィッツというアメリカの先生が、ポートフォリオ理論をつくりました。日本語では資産選択の理論といわれています。

証券投資の対象になる有価証券は二つの要素を持っている。一つは収益、リターン、もう一つはリスクです。リスクとリターンの関係で有価証券の性格が変わってくる。異なるリスクとリターンを持った有価証券を組み合わせて投資することにより、リスクを減らして、高いリターンを得ることができる。それを数学的に証明したのがポートフォリオ理論です。

ポートフォリオという言葉はいろいろなところで使われていますが、人材の面でも人材ポートフォリオという考え方が出てきました。要するに企業の戦略があって、それに必要な人材のボリュームと種類が出てくる。それに向かって人事制度を組み立ていけばいいという考え方です。ある意味では人材に対する投資みたいな観点で、人事制度を考えるという考え方です。

人材ポートフォリオ論の一つの例を挙げます。縦軸に人材の価値の高低、横軸に人材のスキルの企業特殊性の高低を取って、四象限に分けます。そして右上、人材スキルの企業特殊性が高く、人材の価値が高い人を基幹業務担当の人材(経営人材)と呼ぶ。人材の価値は高いが、企業特殊性は高くない、世間一般どこでも通用する人材を専門業務担当人材(プロフェッショナル)と呼ぶ。こういうかたちで人材の属性を考えて、それぞれのポートフォリオに見合った採用なり育成の方針を取る考え方が出てきました。

日経連が出した『新時代の「日本的経営」』によれば、人材ポートフォリオによって採用の仕方を変えればいい。たとえば長期蓄積能力活用型グループに対しては、期間の定めのない正社員としての契約をして、月給制、年俸制、定年制があります。汎用性の高い一般の職務、定型的な職務をする人、雇用柔軟型グループについては、有期雇用契約で、いわゆる非正規社員で間に合わせればいいという考え方が出てきました。

役割等級制度と自律型組織運営

成果主義とそれにつながる新しい考え方を踏まえて出てきた最近の人事制度を、私はポスト成果主義の時代と呼んでいます。企業は幼稚な成果主義から、洗練された、細かくつくり込んだ成果主義の制度あるいは仕事中心の処遇制度をつくってきています。

ポスト成果主義では役割等級制度と自律型組織運営が特徴になっていると思います。

役割等級制度というのは、たとえば住友商事の人事制度では、32歳までの10年間は一律に自動的に昇進させる。そのあとはそれぞれの役割に応じて処遇する。年齢という概念をなるべく外して、その人の役割によって処遇しよう、序列をつけようという考え方です。キヤノンの役割等級制度もそうです。

役割等級制度というのは、基本的には仕事と役割に対して処遇をしよう、それで序列をつけようという仕組みです。一定の役割に対して成果を求めるという仕組みです。

いまの人事制度の特徴は、自律型組織運営と呼んでいますが、経営ビジョンや価値、行動規範で人を育成して評価し処遇しようという考え方です。たとえば、最近よく見かけると思いますが、ミッションやコアバリューを明らかにして、それを共有しよう。要するに、社員みんな同じ方向を向いて走ろう。自動的に走れる仕組みをつくろうということです。

たとえばOur Credo(我が信条)はジョンソン・エンド・ジョンソンという会社の有名な経営信条です。1943年にジョンソン・エンド・ジョンソンの3代目の社長がつくりました。重要なポイントは、優先順位をはっきりさせたことです。われわれにとって一番重要なのは顧客である。2番目は社員、3番目は地域社会、4番目は株主である。

こういう仕組みを日本の企業もやって、社内の目線なり行動規範をつくって、それを社員に身につけてもらって、同じ方向を向いて走りましょうというのが、いまの一つの経営のあり方です。先ほどの役割等級制度と人材ポートフォリオを想定した人事制度となります。成果主義の中から出てきた人材ポートフォリオあるいは仕事中心の役割等級制度が、だんだん根づいてきているという感じがします。うまくいっているかどうかという問題はありますが、これがいまの人事制度です。

正社員と非正規社員

皆さんが疑問に思っているのは、いままでの話は正社員の話でしょうということだと思います。いまや3分の1ぐらいは非正規労働者といわれています。

確かにいま申し上げてきた日本の企業の人事制度は、ほとんど正社員の制度です。正社員は、期間の定めのない雇用をしている社員で、メンバーみたいなものです。正社員以外の人はビジターみたいな扱いになっている傾向があります。終身雇用、年功序列制、企業別組合は正社員を前提にして成り立ってきた仕組みです。これがいま問題になっています。組合にしても、正社員の利益を守ることには熱心だけれども、非正規社員はどういうふうに処遇するのかということについて、うまく行動できない面があります。

もう一つ、法律的な問題や制度的な問題もあります。冒頭にお話しした雇用の話でも、会社は正社員を簡単に解雇できません。厳密にいろいろな条件をクリアしないと解雇できない。その条件の一つに、会社側が苦しくなって人減らしをしなければいけないときは、契約社員を先に減らす。そうでないと正社員を解雇できないということがあります。これは裁判の中で確立してきている整理解雇の要件ですが、そうした法律的な問題もあります。

また、社会保険や所得税の仕組みも、基本的に家計の大黒柱である正社員、お父さんを中心にしてつくりあげられているということがあります。このへんはもっと大胆に改革しないといけないのですが、ご存じのような状況でなかなか進んでいません。

私が今日こういう話をするということを友人に知らせたら、いま大企業の子会社の社長をやっている人が、メールでこういう意見を寄せてくれました。

「従来の日本の人事制度はよく考えられているが、正社員の処遇中心であり、しかも長年の労使交渉の中で、ベアの補完のかたちで細かな諸条件が追加で取り決められ、がんじがらめの感がある。正社員の条件が既得権化し、組合もその保持に走っている。

今後日本が国際競争に打ち勝っていくうえで、非正規雇用の柔軟化、正規雇用者の条件緩和が必要であり、そのへんの全体の雇用政策を真剣に議論する必要がある。当社のように小さい会社の場合、正規、期間契約、派遣と取り交ぜて運用しており、非正規の中から優秀な人材を正規採用するという方式も取って、それでけっこう回っている」。

こういうことが比較的小さい規模の会社の抱える現状であり、対応策と言えると思います。

いままでお話ししてきた人事制度の話は、主に大企業の話ですが、必ずしも大企業と中小企業と二分して、中小企業だからどうだと考えないほうがいいと思います。

中小企業は会社の成り立ちに依存している面があって、いろいろな人事制度を持っています。確かに問題のある会社も多いのですが、中小企業の中でも新しい会社やいま伸びている会社は、非正規社員を活用したり、正社員に転換させる仕組みをつくったり、正社員と非正社員をシームレスにつないでいく仕組みにトライしている会社もたくさんあります。ですから、一概に中小企業だから難しいということは言えないと思います。

もちろん中小企業の場合、社内のキャリアは限られているので、ほかの会社に仕事を探さなくてはいけないケースも多いのですが、中小企業の中にもいい企業はたくさんあるということを申し上げたいと思います。

賃金カーブの推移

1996年の20~24歳男性の月給を100として、1996年、2000年、2011年の年齢別賃金カーブを描くと、1996年と2000年は上がり続けて、55~59歳は1996年で278、2000年は299となっています。先ほどお話ししたように長期雇用を前提として、若いときに会社に貸しをつくって、年を取ったら会社から返してもらうというかたちです。

一方、2011年のカーブは緩やかにしか上がらず、55~59歳でも237です。年功給が崩れて、実力主義の給料になってきたわけですから、20代後半や30代で賃金カーブが急速に立ち上がって、そのあとフラットになっていくと想定されていたのですが、どうもそうなっていないのが現実です。これがなぜなのか、私にはよくわかりません。

定年延長の是非

いま高齢化に伴う年金の支給開始年齢の引き上げということから、定年延長、65歳までの雇用義務付けという議論があります。いま60歳が定年の会社が圧倒的に多いのですが、だいたい60歳で定年になって再雇用され、給料は7割ぐらいに下がっているというのが現状です。

いま65歳までの雇用義務付けを議論していますが、私は定年を延長するのはナンセンスだと思います。賃金制度をもっと実力主義にして、60歳でドーンと給料を下げるのではなく、その前から実力に応じた処遇をするという仕組みにしていけば、定年自体の意味がなくなってくると思います。そうすると必ずしも定年延長しなくても、早く辞める人は辞めるし、長く働く人も出てくると思われます。

企業の人事制度(まとめ)

人事処遇制度の類型からいうと、年功制度や職能資格制度は、基本的に人間基準の制度です。人の属性、年齢や家族構成で処遇を決めるのが年功制度、人の能力を基準に等級をつくって処遇を決めるのが職能資格制度です。

これに対して、仕事を基準にして等級をつくって給料を決めようというのが、職務等級制度です。最後にお話しした役割等級制度は、職能資格制度と職務等級制度のハイブリッドみたいなかたちで、仕事基準の制度です。仕事を中心に、能力に対する期待値も含めた役割期待を考えて、それを基準に等級をつくり処遇しようという仕組みです。

もう一つ、市場基準の制度が成果主義制度です。これが企業の人事制度のまとめになります。

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